Nakamura Ladies clinic Obstetrics & Gynecology

2010.2

発売された子宮頸がん予防ワクチンについて

1年前にこのホームページで紹介させていただいた子宮頸がん予防ワクチンが、平成21年12月にようやく発売されました。
ワクチンは、人類が生み出した最も有効な医療行為の一つであるといわれておりますが、その中でもこのワクチンは、画期的なものであると思います。なぜなら、これが実質的に初めてのがん予防ワクチンであり、子宮頸がんがほぼ撲滅可能なほど有効であるからです。
これは、ヒトパピローマウイルス(HPV)16型と18型の2種類に対するワクチンです。これらの型は、子宮頸がんを発症した若い患者さんの原因であることが多いため、ワクチン接種により、40歳代では約70%、20歳代では約90%、10歳代の学童期では実に98%の予防が可能と考えられております。ワクチン接種は、全部で3回施行することにより、100%の免疫をつけることができます。またその免疫力は、少なくとも20年消えることはありません。
前回、子宮頸がんの原因はヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染であると説明しました。多くの人はたとえ感染しても、ウイルスが自然排出されるのですが、それがうまくいかないときに持続感染が起きます。ウイルスが自然排出されるのは、通常の免疫システムと違い、細胞性免疫というシステムにより行われます。そのために、自然感染では免疫抗体を得ることはできません。ワクチン接種によって、自然には獲得できない免疫システムでウイルス感染を予防することになります。ヒトパピローマウイルス(HPV)16型と18型、この2つの型に対するウイルス持続感染予防効果は100%です。従ってこのワクチンが、子宮頸がんの極めて有効な予防となります。
オーストラリアやイギリスなどでは、このワクチンの有効性と重要性を認め、学童期に公費で、ほぼ全員にワクチン接種を行っています。これらの国では数十年後には、子宮頸がんが極めてまれな疾患になっていることは間違いないと思われます。日本でも、早く同様な行政の対応が望まれるところです。

2009.1

子宮頚癌予防ワクチンについて

子宮頚癌は、パピローマウイルスという病原性ウイルスの感染が原因で発症します。このウイルスは、DNAの型により100種類以上に分類されています。同じパピローマウイルスの感染による病気には、産婦人科領域では尖形コンジローマというものがあります。性病の一種で、外陰部にカリフラワー状のイボが発生する病気です。しかしこれは良性の腫瘍であり、手術または薬物療法によって完治します。
パピローマウイルスについては、通常の細胞診と同じように、簡便な方法でスクリーニング検査およびタイピング検査を行うことができます(いずれも自費)。
パピローマウイルス感染は永続するものではなく、ほとんどが一過性のものですが、高リスク型の持続性感染が、子宮頚癌や、その前癌状態である異型性の原因となります。また、持続性感染は30代以降に多くなります。その原因として、低年齢からの頻繁な性行為により感染を繰り返す、持続感染を起こす体質であることなどが考えられます。
残念ながら、パピローマウイルス感染そのものを治療する薬は現時点ではありませんが、最近、子宮頚癌予防として、パピローマウイルスの感染予防ワクチンが開発されました。すでに欧米では広く接種されていますが、日本でも平成21年3月にようやく認可される予定です。現在開発中のワクチンは、高リスク型の6つの型に有効で、これは、現在の日本人がかかる子宮頚癌の76%に相当します。
年齢を問わず、ぜひ予防ワクチンを接種されるようおすすめします。

2007.10

妊娠高血圧症候群

以前、妊娠中毒症といわれていた病気は、現在では「妊娠高血圧症候群」という名称に変わりました。妊娠中毒症とは元来、高血圧、蛋白尿、浮腫を3大症状とする病態でした。その原因は、何らかの悪い物質(中毒物質)が出現することにより起こると考えられたため、妊娠中毒症という名称になりました。その中毒物質を探し出す研究が、永年にわたり行われてもきました。
それが近年になり、妊娠中毒症は、中毒物質が原因なのではなく、妊娠によって腎臓や血管が負荷を受け、生理的に適応できなくなって起こる病態であり、主体は高血圧で、他の症状はそれに付随するものと考えられるようになりました。
この考え方により、欧米では30年位前から、妊娠に伴う高血圧症候群という分類が提唱され、世界的にもこの分類が徐々に主流になってきました。日本でもこの流れに逆らえず、日本産婦人科学会では平成16年にようやく、妊娠中毒症の名称を「妊娠高血圧症候群」に改めることとしました。
「妊娠高血圧症候群」という名称が示す通り、3大症状と呼ばれていた高血圧、蛋白尿、浮腫の中で高血圧が一番重要な症状であり、高血圧を伴わない蛋白尿や浮腫はほとんど問題がありません。
また、この病気の特徴は、軽症であればほとんど心配ないのですが、重症になると大問題となることです。最悪の事態として、高血圧に伴う脳内出血、高度の蛋白尿の持続による腎不全があります。
重症になった時点で胎児の発育はほぼ停止し、胎内死亡の危険性もでてきます。胎盤早期剥離という病気を誘引することもあり、その場合は母親の生命の危機を招きかねません。
そして残念ながら、重症となった場合には症状が軽減することはなく、唯一の治療法は妊娠の中断となります。すなわち、たとえ早い時期であっても、帝王切開をして妊娠を終わらせるしかありません。
妊娠には、このように怖い病気があることを心に留め、妊婦健診をきちんと受けるようにしましょう。

2007.5

高年女性の不妊症治療

女性の高学歴化、社会進出により、女性の晩婚化がますます顕著になっています。私が診療に当たる中でも、ここ10年くらいの間に、不妊症を主訴に来院される患者さんの年齢が以前に比べ高くなってきている印象を受けます。
高齢者の不妊症治療には、限界があります。諸外国では、他人の卵子を使用した治療が認められているため、ときに極端な高齢出産が報道されますが、日本では認められていない治療法です。平成17年1月に、ルーマニアで66歳の女性が出産したというニュースが流れました。このとき、人工授精による妊娠と報道されましたが、正確には体外受精胚移植、それも卵子と精子の両方を供与されての体外受精胚移植による妊娠でした。アメリカの有名な不妊症センターに勤務されている医師の講演を聞いたときの情報では、その施設では、38歳になると通常他人の卵子による治療を選択し、40歳以降で自分の卵子を使用することはまずないということでした。それくらい、妊孕性(妊娠できる能力)は、女性の年齢に影響を受けるものなのです。
女性の妊孕性の低下は、卵子の質の低下によるものです。体外受精胚移植の際は、採卵により卵子を顕微鏡で実際に観察できますが、変性卵も多く、卵周囲の顆粒膜だけで卵そのものが発育していないことも多くあります。これは、超音波検査ではわからないことで、まして基礎体温や月経の有無という現象ではわかりません。また、採卵できたとしても、妊娠するためには受精、分割、そして子宮に着床しなければなりませんが、それぞれに確率が低下し、妊娠したとしても流産の確率が増加します。40歳以上の体外受精胚移植による妊娠率は数%、そして妊娠した後の流産の確率は50%以上になります。
日本では、前述の通り他人の卵子を使用した治療が認められていない以上、たとえ確率が低くても、ご夫婦間の体外受精胚移植を続けるのが最良の治療法となります。また、月経がある間は妊娠する可能性があると考えるのは間違っています。ごくわずかな例外を除いて、自然妊娠は42歳くらいまでと報告されています。確率がゼロでない間は治療を続けるというのもひとつの選択肢ではありますが、努力が報われる確率はかなり低いという現実を忘れてはなりません。
このような観点から、不妊症治療はなるべく早めに始めたほうがよいと考えます。信頼できる医師のもとで、積極的かつ冷静さと忍耐力をもち、治療を進めていくことが必要です。なかなか結果がでなければ、主治医を変えてもいいかもしれません。限られた期間、後悔のないように治療をしていただきたいと思います。

2006.7

子宮内膜症について

子宮内膜症とは、月経のときに剥脱する子宮内膜が子宮内腔以外に発生した病態をいいます。主に骨盤内臓器に発生し、子宮筋層に発生した場合を子宮腺筋症、卵巣に発生した場合をチョコレート嚢腫といいます。
内膜症は月経痛が強いということが、よく周知されているようですが、診療をしていて感じる問題は、“診断”“不妊”“癌化”の3点です。
“診断”については、子宮腺筋症やチョコレート嚢腫では、超音波やMRIで診断可能です。しかし骨盤腹膜での発生は、腹腔鏡検査が必要となります。また内診による硬結の触知、腫瘍マーカーの1つであるCA125の上昇などが、補助診断として用いられます。頻度は1%から35%と、報告により大きく差があります。その理由は、便宜上補助診断のみで診断されることが多いためです。近年、社会的な要因や環境要因で、内膜症が増加していることがよく指摘されます。そしてその風潮に乗じて、安易に内膜症と診断され、治療を受けるケースもしばしば見受けられます。月経痛が強いというだけでは、内膜症が存在する可能性はむしろ低いことを、認識したほうがよいと思います。
“不妊”については、内膜症による癒着や、内膜症組織からもたらされる化学物質が、卵巣や卵管の機能障害を引き起こすことが、以前より指摘されております。最近の研究では、受精卵の子宮への着床阻害は、ほとんどないと考えられております。残念ながら、薬物による治療法はなく(内膜症治療は月経が停止するため、不妊症治療との併用はできません)、手術をするか、経過観察かの選択になります。手術の対象になるのはチョコレート嚢腫で、経腟超音波下でのアルコール硬化療法や、腹腔鏡下での嚢腫摘出術がよく用いられます。しかし、硬化療法では再発も多く、嚢腫摘出では正常組織の損傷も多少あり、利益、不利益をよく考えた上での開始が必要です。
“癌化”については、最近指摘されるようになりました。一般に良性腫瘍が悪性に変わることはありません。内膜症の癌化というのは、それ自身の転化というよりは、悪性の誘発と考えられます。程度が強く、罹患期間の長い方が、癌化のリスクも高くなります。閉経近くなり、月経痛の症状がなくなった頃が、好発時期であることに注意が必要です。直径6cm以上の比較的大きなチョコレート嚢腫では、癌化予防の観点から、摘出手術が望ましいと考えられます。

2005.5

更年期障害について

更年期障害についてどのようなイメージをお持ちでしょうか。
40代後半から50代にかけて発症する、ホルモンが関係している、多様な症状が出てくるといったイメージはあるものの、病態については漠然と認識している方が多いようです。
また一般的に、更年期は壮年期から初老期に移行する年代と捉えられているため、「更年期障害」はその年代の病気の総称と考えている方も多いように思います。
婦人科的に「更年期障害」という場合はもう少し狭く考え、卵巣からの女性ホルモンの分泌が低下することによって起きる症状のみをいいます。したがって、女性ホルモンが正常ならば更年期障害とはいいません。そして、数あるホルモンのうち、問題となるのは女性ホルモンのみです。
症状としては、体のほてりが一番典型的な症状ですが、その他にも、イライラ感、頭痛、肩こり、不眠など多様に出現します。ただし、このような症状が更年期に見られたとしても、繰り返しになりますが、女性ホルモンが正常ならば「更年期障害」とはいいません。まず、生理が順調にあるならば、女性ホルモンは間違いなく正常であるために更年期障害ではありません。また、生理不順は更年期障害の症状ではありません。生理不順は排卵が不順であるということであり、若い方にもよく起こることです。もちろん、更年期に卵巣機能が低下して生理不順になることは多いのですが、このような時期には、たとえ排卵がなくても女性ホルモンが出ていることがほとんどです。
さらに更年期は、ご承知の通り成人病の好発年齢です。精神的には若くても肉体的にいろいろと衰えてくる年代であり、食事や運動などのライフスタイルの見直しをしないと大変危険な時期でもあります。また、家庭内でのさまざまな問題や親の介護などの新たなストレスが加わることも多く、それが精神的、身体的な病気の一因となることも多いようです。
ただ、このことと「更年期障害」はまったく別のものです。
最近では男性の更年期障害という言葉も見受けますが、私はこれもおかしな表現だと思っています。更年期に見られる障害と「更年期障害」、ぜひ混同しないようにしたいものです。

2004.8

ピルについて

妊娠中は妊娠しない。あたりまえのように思われますが、これをヒントに考え出された薬がピルです。
ピル程、画期的な発明で、世界的にも広く使用されているにもかかわらず、日の目を見ないものはないのではないかと思います。薬自体は非常に単純な構造で、2種類のホルモン(女性ホルモンと黄体ホルモン)の合剤です。これを持続的に服用することにより、妊娠中と同じホルモン状態になり、排卵がおこらず妊娠しなくなります。避妊効果はほぼ100%です。妊娠という、生物にとって根本的な問題が、ホルモンによってコントロールされていることを証明したもので、そのインパクトはノーベル賞にも匹敵するものではないかと私は考えます。ただ目的が避妊ということであるために、日陰の薬というイメージが強く、華々しい脚光を浴びることなく今に至っています。
ピルに対する評価は、文化を強く反映します。カトリックでは、避妊そのものに対して否定的なために、当然ピルの服用も反対です。一方アメリカでは、妊娠に対するコントロールは女性の責任であるという考えが社会的にも法律的にも浸透しており、広く普及しています。また何事にも先進的なオランダでは、20代の女性の75%が常用しています。
ピルの歴史は比較的古く、40年以上も前から臨床的に使用されていました。効果を保ちつつ、副作用を減らすために薬の用量を減らす改良がなされ、30年位前に現在の用量で定着しています。日本でも15年程前に臨床試験はすべて終了していたのですが、性病の問題や、環境ホルモンの問題などで認可が遅れ、数年前にようやく認可されました。
私が診療をしていての印象は、日本ではピルが認可されてからも、意外に普及してないようでに思われます。その一番の理由は、ホルモン剤を常用することに対する不安感が強くあるからではないでしょうか。
しかし、その不安の多くは誤解に基づいたものです。正しい知識を得たうえで、ピルの服用を検討していただきたいと思います。

2004.1

不育症について

妊娠しないのが不妊症ですが、せっかく妊娠しても流産を繰り返してしまうことを不育症、または習慣性流産といいます。流産の確率は、通常でも15%位はあります。この原因は主に胎児側の問題で、胎児の生命力が無いために起きると考えられています。不育症の場合は、胎児側の問題ではなく、ご夫婦側の問題で流産が繰り返されることをいいます。便宜上、分娩例が1度もなく、3回以上流産を繰り返したときと定義されています。
不育症の原因としては、ご夫婦の染色体異常、子宮の形態異常、内分泌異常、免疫異常などが考えられておりますが、最も重要なのは免疫異常です。染色体異常の検査も必要だとは思いますが、頻度はかなり低く、この場合は治療法がありません。また、子宮の形態異常や、内分泌異常が実質的に原因となることはほとんどないと、私は考えます。従って、不育症の検査および治療としては、免疫異常に対するものが中心となります。
免疫というのは、ご承知の通り、ばい菌などの異物に対して、生体がとる防御反応です。つまり、免疫により流産を起こすというのは、子宮内の胎児を異物と認識して、それを排除する作用が働いてしまうことと考えられております。免疫異常の中でも2通りあり、1つは自己免疫に関するもの、そしてもう1つはご夫婦の相性によるものです。自己免疫に関するものとは、自分のからだの中の正常の細胞(細胞膜や核)に対する免疫(これを自己抗体といいます)が存在することです。このような病態を自己免疫疾患といい、内科でも膠原病や腎臓病などの原因としてよく問題となります。自己抗体は血液検査で容易に診断でき、これが認められたときは、妊娠したらすぐにステロイドなどの免疫を抑制する薬を用いて治療します。2つ目のご夫婦の相性によるものとは、お互い同士は特に問題なくても、ご夫婦の組織適合性が似ているとき、つまりからだの体質が似ているときに(性格とは関係ありません)、流産を起こしやすいと考えられております。これに対する検査は、いくつか報告はあるのですが、決定的なものはまだありません。そして、これに対する治療法は、免疫療法といい、夫の白血球を分離して、妻の皮下に注入する方法をとります。
現在では、不育症の原因は、50%以上がこのご夫婦の相性により免疫が関与するものと考えられております。従って不育症治療の中心は、現時点では免疫療法であるといってよいと思います。しかし未知の原因による不育症が存在する可能性もあり、それに対しては免疫療法は無効であること、そして治療した後でも、胎児側の問題で15%位の確率で流産は起きてしまうことを忘れてはなりません。

2003.1

不妊症治療の保険適応について

現在不妊症治療は、原則として保険適応はありません。 理由としては、不妊症は病気ではないと考えられているからです。確かに不妊症であっても、狭い意味では健康を害することも無く、日常生活に支障をきたすこともありません。しかし、子供を願うご夫婦にとって、子供ができないということは決して正常なことではありません。私は毎日そのようなご夫婦と接しているため、子供を願う切実な思いをいつも痛感しております。そして、そんな方々のためにも、保険適応を認めてほしいと願っています。 私が保険適応を認めたほうが良いと思う理由は、多くの不妊症には医学的な原因があり、治療可能であるからです。排卵障害には排卵誘発剤で、卵管閉塞には体外受精で、そして乏精子症には顕微授精で治療が可能です。1回当たりの成功率がやや低いのが残念なところですが、逆に比較的簡単に複数回の治療ができることが強みでもあります。 一部の検査、および治療には、すでに保険の使用が認められております。例えば、子宮卵管造影や腹腔鏡はどこの施設でも保険診療です。また、排卵誘発剤の使用も、条件付ながら、卵巣機能不全という病名で保険を使用することができます。 ただし、一部の特殊な検査、例えば精子の形態、機能検査や、特殊な免疫検査、遺伝子検査は、それがとても重要なケースもあるのですが、保険適応が無いのもやむを得ないと考えます。医療には、研究の段階から、自費診療の段階、そして広く浸透することによって保険診療の段階へと進む過程があります。現在ではごく一般的に行われている診療行為の多くは、この過程を経てきました。保険適応が認められるということは、それが医学的に有効であることが立証され、広く一般的に有用であることのお墨付きが与えられたことを意味します。 その観点に立てば、現在不妊治療の中心となっている人工授精や体外受精は、とっくに保険適応が認められてしかるべきものと考えます。体外受精は、歴史的には比較的新しいのですが、急速に広まっており、今や不妊症治療の中心となっております。 不妊症治療を保険適応にする主な問題点は、先ほど述べた病気とは性質が異なるという点と、何と言っても財政的な問題があります。特に体外受精は高額なため、簡単には保険適応を認められない事情があります。しかし、現在の保険診療費が、極端に老人医療に偏っていることを考えると、 それを是正し、少しは不妊治療に当てても良いのではないかと考えます。当院でも、保険適応の範囲が広がるよう、努力していきたいと考えております。

2002.6

クローンについて

数年前に世界で初めて、クローンの羊ドリーが成功して以来、その技術は家畜の世界では急速に普及しております。
クローンとは、卵巣から卵子を取り出して、その核を他の個体の核と交換する核移植と呼ばれる技術を用いて作られた動物のことをいいます。通常動物の生命が誕生するには、卵巣で出来た卵子と精巣で出来た精子が受精することから始まります。つまり、母親からの遺伝情報と父親からの遺伝情報を、必ず引き継ぐことになります。それに対してクローンの場合は、一方の遺伝情報のみしか引継ぎません。全く同じ遺伝子を持った個体が誕生するわけです。全く同じ遺伝子を持ったケースとしては、一卵性の双生児がありますが、クローンで誕生した子供とは、一卵性双生児のような親子と考えられます。
家畜の世界では、優秀な体質をもった家畜を生産するために、クローン技術が注目されているようですが、人に適応することは、多くの問題があります。成功率が極端に低いという技術的な問題や、長期的な予後が不明、予測不能な疾病をもたらす可能性があるといった安全性の問題もありますが、やはり倫理的な問題が一番重要視されております。自然には決してできない誕生、人類はじまって以来一人もなかった存在、一人の遺伝情報だけを受継ぐ人間を認めてもよいのかという問題です。
現在日本、欧米をはじめ多くの国は、クローン技術の人への適応を禁止する方向で動いております。日本では平成13年12月に“ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律(クローン法)”を成立させ、クローン人間を作ることを禁止しています。しかしながら、平成14年1月に米国で、クローン人間を作る計画が発表され、最近ではイタリア人の医師が妊娠に成功したことを発表しました。年末には子供が誕生するそうです。このような人類にとって重要な問題が、一人の研究者の興味からなし崩し的に行われてしまうことは、大変問題であると思います。日本は技術先進国にふさわしく、さまざまな観点からの幅の広い議論を行うことが必要と思いますし、行政が当面の禁止処置をとることは、妥当なことだと考えます。

2001.10

子宮体癌について

約1年前に著名なニュースキャスターが若くして子宮体癌で亡くなって以来、子宮体癌が心配で来院される方が増えています。
同じ子宮であっても、上皮という一番表面の構造は子宮頚部と子宮体部では全く異なっており、癌はこの上皮に発生するため、子宮頚癌と子宮体癌は全く異なった病態を示します。
そのために発生原因も全く異なり、子宮頚癌は性病の原因ともなるパピローマウィルス感染がきっかけになるのに対して、子宮体癌は女性ホルモンや、コレステロール摂取との関係が大きいと考えられております。世界的な傾向として、子宮頚癌は減少しているのに対して、子宮体癌は増加しております。1970年では、子宮癌全体の中で子宮体癌の占める割合は、日本では3%,アメリカでは20%であったのに対して、1999年では日本では35%、アメリカでは実に70%にもなっております。アメリカでの人種による差はほとんどないため、食生活が大きく関係していると考えられております。
子宮頚癌でも子宮体癌でも共通していることですが、他の癌と比較して検査が比較的たやすくできて、自分で注意をしていれば早期発見は比較的容易いのですが、日常生活に支障をきたすような症状が初期には出ないために、注意を怠ると進行癌になるまで放置されてしまいます。
子宮頚癌は毎年市の検診などを受けていただければよいと思いますが、子宮体癌は通常の検診では行わないために、不正出血がある場合に、病院を受診し検査を受けられることをお勧めいたします。

2000.10

クラミジア感染症について

クラミジア感染症は、現在日本でも欧米でも、最も多い性行為感染症です。
男性の場合は尿道炎、女性の場合は子宮頚管炎が初期の病態です。ただし女性の場合は、病原体が精子と一緒に卵管や腹腔に運ばれるため、比較的早期に卵管炎や骨盤腹膜炎を発症することがあります。
クラミジア感染が原因で婦人科を訪れてくる方の症状は、実にさまざまです。子宮頚管炎では、オリモノが少し増える程度の症状しか認められません。しかし卵管炎になると、下腹部痛や性交痛が出現し、炎症が慢性化すると卵管閉塞による不妊症の原因となります。さらに腹膜炎になると、激しい腹痛を訴えて、救急車で運ばれてくることもあります。
クラミジア感染を疑った場合の検査法は、病原体そのものを検出するDNA検査と、感染した結果血液に出現する抗体を検出する抗体検査があります。DNA検査で陽性の場合は、確実に菌の存在が証明されるため、必ず治療が必要となります。しかし女性では、子宮頚管までしかアプローチできないため、そこまでの検査しかできません。卵管炎や骨盤腹膜炎を疑った場合には抗体検査が必要になりますが、抗体検査では菌の存在をそのまま反映するものではないため、過去の感染でも陽性となってしまうことがあり、治療が必要か否か迷うこともあります。
治療法は、マクロライド系やニューキノロン系といった種類の抗生物質を、通常2週間から1ヶ月使用します。大事なことは、性行為感染症であるために、必ずパートナーの検査をし、感染している場合は同時に治療してもらうことです。
他の感染症と同様に早期発見、早期治療が大切であり、心当たりがあれば症状が少なくても、病院を受診し検査を受けられることをお勧めいたします。

2000.5

妊娠中の喫煙について

妊婦が喫煙した場合の害については、多くの報告例があります。胎児発育不全の発症は2倍、流産および早産も2倍、周産期死亡率は1.3倍、先天奇形の頻度は1.5倍とされています。正期産の出生でも、喫煙をする妊婦からの出生児は、平均で200g体重が少ないことが知られています。胎児発育が遅れる上に早産の危険性が高まるために、当然周産期死亡率が高くなると考えられます。
現在明らかになっている原因としては、ニコチンの作用によって胎盤へ行く血管が収縮し、胎盤の血流量が少なくなることに加え、酸素を運搬するヘモグロビンが一酸化炭素と結合してしまうため機能不全をおこし、胎児が慢性的な酸素不足をおこすことが知られております。
妊娠がわかった時点で、なるべく早く喫煙を止めるのが一番良いと思います。妊娠中喫煙をし続けた場合は、妊娠18週までに止めた場合と比較して、早産の率が2.5倍、低出生体重の率が1.4倍高くなると報告されております。また完全に止めるのが難しい場合には、少しでも本数を少なくするのがよいと思います。全妊娠経過を通じて1日20本以上の喫煙では、1日5本以下と比較して、早産の率が3.2倍、低出生体重が3.8倍高くなる報告されております。同じ1本を吸うのでも、最後まで吸うのとすぐに止めるのとでは、かなり違うと思います。また同じタバコでもニコチン、タール量のなるべく少ないものの方が良いと思います。軽いイメージの商品でも含有量の多いものがあるので、注意が必要です。
受動喫煙の影響も無視することはできません。点火部の温度が850-900度の主流煙に比較して、350度以下の副流煙ではニコチンがほとんど分解されません。また一酸化炭素が2.5倍など、他のほとんどの有害物質も、主流煙に比較して多く含まれます。妊娠がわかった時点で、ご主人などにも協力していただき、喫煙による煙が室内に残らないようにしたほうが良いでしょう。
無事に生んでしまえば安心して喫煙できるというものでもありません。授乳中は、ニコチンが大量に母乳に移行します。母乳を与えない場合でも、受動喫煙の問題があります。このために乳幼児突然死症候群の頻度は、喫煙により2倍から4倍増加します。これはニコチンが、赤ちゃんの呼吸中枢の覚醒反応を遅延させるためといわれております。
これだけ明らかに有害なことがわかっているのですから、妊娠をしたことをきっかけに、禁煙に挑戦されることをお勧め致します。

2000.1

出生前診断について

出生前診断とは、母親の血液や羊水の検査をすることにより、胎児の疾患を出生前の早期に発見しようというものです。
この方法でわかるのは染色体異常の疾患のみです。しかも多くの染色体異常は超音波検査にて早期発見が可能であり、致死的疾患であるため、現実的に有用なのは、超音波検査での発見が困難で、致死的でないダウン症の発見に絞られます。
方法としては血液の検査と羊水の検査の2種類あります。血液の検査はトリプルマーカーと呼ばれ、3種類のホルモン値から統計的に危険率を計算する方法です。この検査は採血だけでよいため、検査に伴う危険性が全くなく、第一選択としてよく行われます。しかし、結果はあくまでも危険率という形で出てくるため、診断を確定させることはできません。もう一つの羊水の検査は、羊水を採取し、その中の浮遊細胞を培養して染色体を直接調べる方法です。この検査では診断を確定することができますが、検査そのものに多少の危険性を伴います。子宮に針を刺して羊水を採取するため、穿刺部位の出血や感染が原因で流産や早産をおこしたり、胎児に針があたり、致命的な傷をおわせる危険性もあります(実際に問題となるのは1~2%程度です)。
どちらの方法にしても現在のところ保険適応がありません。当院ではトリプルマーカーが2万5千円、羊水検査が2~3日の入院で約10万円の費用がかかります。
まず検査に対する倫理的な問題としては、この検査で異常が見つかったときに、中絶手術が前提であることです。ダウン症は致命的な病気ではなく、ダウン症児であっても生きる権利があるとする意見があります。一方、ダウン症児を実際に育てるのは大変な犠牲を伴うため、法律で認められている時期までに情報を得て中絶をするのは、親の権利として認めるべきであるとする意見もあります。
実際に臨床の現場で問題と感じるのは、トリプルマーカー で陽性となる頻度が比較的高いということです。陽性の基準が、35歳の方の通常の危険率である1/295であるために、30歳では10%、35歳では28%、40歳では実に56%の方が陽性となってしまいます。そして陽性と判定された方の80%以上が、危険性のある羊水検査を受けることを選択されます。1/295以下の確率を確定するために、羊水検査というリスクを負うことには、疑問を感じざるを得ません。
当院では、高齢出産やダウン症児出生の既往歴、家族歴のある方には、検査を紹介してますが、このような危険因子のない方には、あまり勧めてはおりません。

1999.10

男女生み分けについて

現在のところ医学的にコンセンサスが得られている生み分け方法はありません。
男女の性別を決めるのは、精子にあります。男女生み分けの考え方は、男性の精子と女性の精子を選別しようという考え方です。
男性の精子と女性の精子の違いをもう少し細かく述べますと、精子の頭部にある細胞の核の性染色体が、少し大きめのX染色体のときは女性の精子、少し小さめのY染色体のときは男性の精子となります。実際生み分けを推奨している施設で用いられている方法は、排卵日より2日前に夫婦生活を行うと、寿命の長いX精子がより多く生き残り女の子になりやすいとか、排卵日より後に夫婦生活を行うと、軽いY精子がより早く卵子に到着し男の子になりやすいとかいうものです。しかし、寿命についての医学的な根拠は全くなく、運動を担っているのも尾部の方であって、前述の理論は全くナンセンスです。
日本産婦人科学会で認定している方法があります。パーコールという特殊な液体を適度な比重に調整し、それとともに精子を円心する事により、X精子とY精子を比重の違いにより選別しようとする方法です。血友病や筋ジストロフィーなどの、性差のある病気を持った患者さんのみに使用してよいことになっております。しかし、この方法についても、疑問を感じざるを得ません。細胞核の中のX染色体とY染色体のわずかな重さの差より、遙かに大きな体積をもつ細胞質内の成分の差、あるいは尾部の長さの差の方がよほど比重に関係していると考えられます。またパーコールについても、それ程厳密に比重が決められるものではありません。何故このような方法が、日本産婦人科学会の規定に記載されているか全く不思議なのですが、これに疑問を抱く産婦人科医は、決して少なくはないと思われます。 将来的に生み分けが可能な方法があるとすれば、それは肉眼的にX精子とY精子が鑑別できる方法が開発された時と思われます。もしそれが可能ならば、顕微授精の技術を用いて確実に望む方の精子を受精させることができるからです。実際外国では、フローサイトメトリーという手法を用いてそのような試みがなされていますが、まだ信頼のできる結果は得られていないようです。
当院ではこのような理由により、現在のところ男女生み分けは、行っておりません。

1999.5

ダイオキシンについて

実際のところ、どの程度のダイオキシンが含まれているのでしょうか。平成10年度の埼玉県の調査では、平均で母乳1g中にダイオキシン0.54ピコグラム含まれるそうです。1日に体重1kg当たり120mlの母乳を飲むとすると、64.8ピコグラムのダイオキシンを摂取することになります。厚生省が出している基準は、一生摂取しても影響のでない量として、1日に体重1kg当たり10ピコグラム以下となっているため、この基準からみれば、確かに母乳を摂取している赤ちゃんの摂取量は、安全基準を超えております。ダイオキシンは脂肪に蓄積する作用があるために、母乳にも蓄積してくると考えられております。それならば人工乳ではダイオキシンが含まれていないのかというと、そういうことはありません。確かに母乳よりは少ないようですが、報告により母乳の半分から10分の1程度のダイオキシンは含まれております。人工乳の主な原料は牛乳であるため、当然ながら牛乳にも母乳と同様にダイオキシンが蓄積してくると考えられます。牛乳中のダイオキシン濃度は、それを搾乳する牛の餌や地域により、上記のような格差があるようです。
母乳のみを栄養とする赤ちゃんにとっては、大人に比べて相対的にダイオキシンを摂取する割合が高くなるのは、当然のことでもあります。1年足らずの極限られた乳児期に、人が一生涯取り続けても安全な基準を適用することは、必ずしも妥当とはいえません。
また、ダイオキシンだけの理由で、母乳を止め人工乳を与えることは、賛成しかねます。人工乳では母乳中に含まれる免疫因子がないため、感染症にかかり易くなります。また人工乳では異種蛋白である牛乳が原料であるために、アレルギー性疾患にかかりやすくなるとも言われております。突然死症候群も、人口乳保育児の方が多いというデータもあります。母乳を通しての母子のスキンシップも、母子にとって貴重な経験であります。
当院としては、たとえ多少ダイオキシン濃度が高いとしても、それにより懸念されるリスクは、母乳を与えるメリットの方を上回るものではないと考え、現時点では母乳哺育がより望ましいと考えております。